※本記事は、筆者自身の失敗体験にもとづく注意喚起です。特定の投資商品・自動売買ツールの紹介や勧誘は一切ありません。
「ほったらかしで、お金が増えたらいいのに」
3年前の僕は、たしかにそう思っていた。そして一度だけ、本当にそうなった。50万円が、何もしていないのに1ヶ月で100万円になったんだ。
その100万円は、ある朝、0円になった。
もしあなたが、いま似たような話を前にしているなら——この記事は、そのあなたのために書いた。「知ってる人が稼いでいるから」「ちょうどお金があるから」。僕が乗ったときの理由が、たぶんあなたにも、そのまま使えてしまうからだ。
先にことわっておくと、これは「自動売買は危ない、やめておけ」と説教する記事じゃありません。FXの自動売買(プログラムが24時間、勝手に外国のお金の売り買いをしてくれる仕組み)に50万円を入れた僕が、増えて、迷って、0円で終わるまでの5ヶ月に何を考えていたか。それを時系列のまま、全部並べるだけです。数字も、情けない心の声も、実際のものだけ。
2023年7月28日の朝 — 残高は、0円
その朝のことから話したい。2023年7月28日。
目が覚めて、いつものように携帯で口座の残高を見た。この5ヶ月、毎朝くりかえしてきた数秒の日課だ。
表示は、0円。
前の日まで、100万円あった。
何度か、見直した。数字は変わらない。
「……ゼロ?」
気づいたら、天井を見ていた。あの朝に見た天井だけが、いまも記憶から消えないんだ。
なんでこうなったのか。話を、5ヶ月前のランチに巻き戻す。
5ヶ月前のランチ — 「たしか200万円、稼いだ」
2023年の2月。同業の知り合いと、ランチを食べていた。仕事で何度も一緒になるうちに仲良くなって、たまに情報交換をする間柄の人だ。
その席で、FXの自動売買の話が出た。専用のツールを入れて動かしておけば、あとは何もしなくていい、という。その人自身が、たしか200万円ほど稼いでいた——記憶では、そうだ。
正直に白状する。聞きながら、僕の頭の中は半々だった。「これは怪しい」と、「でも、楽して儲けたい」。きれいに、半分ずつ。
話は、聞くだけでは終わらなかった。
乗った理由は、目の前にいるのが「ネットのどこかの誰か」じゃなくて、よく知っている人だったからだと思う。人柄を知っている。仕事ぶりも知っている。その人が、実際に稼いでいる。
<このとき学んだこと>
「怪しい」は、知っている人の顔がつくと薄まる。話の中身は、何ひとつ変わっていないのに。疑うべきは人柄じゃなくて、仕組みの方だったんだ。
このランチが、5ヶ月後のあの朝につながっていく。
元手は保険の解約金 — 家族には、言わなかった
参加の条件は、最低50万円を口座に入れることだった(証拠金という。取引の元手として預けておくお金のことだ)。
普通なら、ここで一度立ち止まる金額だと思う。でも間の悪いことに、このとき手元には、貯蓄型の生命保険(掛け捨てじゃなくて、解約するとお金が戻ってくるタイプの保険)を解約したお金が、ちょうど50万円あった。
50万円の話に、50万円が、すっぽりはまった。
「ちょうどあるじゃん」——今思えば、これがいちばん怖い。金額の重さを測る前に、収まりの良さで決めてしまった。
そして僕は、このお金のことを家族に言わなかった。
理由は、たぶん単純だ。「怪しくないの?」と聞かれたら、「怪しいかもしれない」としか答えられなかったから。
<このとき学んだこと>
家族に言えない時点で、たぶん答えは出ていたんだ。人に説明できないお金の使い方は、あとで説明できない結果になって返ってくる。
後ろめたさは、あった。あったのに、手は止まらなかった。
設定 — 余ったパソコンが、24時間働き始めた
ツールのやりとりは、LINEのオープンチャット(匿名で入れる、大人数のグループチャットみたいなもの)だった。設定のやり方をまとめたPDFが配られていて、それを見ながら自分で設定する方式だ。
本来のおすすめは、VPS(ネット上で借りて、24時間つけっぱなしにできるパソコンみたいなもの)を契約して動かす方法だった。でも僕は、ちょうどパソコンを買い替えたばかりで、古い1台が家で余っていた。
これを使おう、と思った。
PDFを見ながら、取引ソフト(MT4という、FXの取引に使う定番ソフト)を入れて、もらったツールを設定して、電源を入れっぱなしにするところまで整えた。初めての作業ばかりで、けっこう時間がかかった。
動き出したときの感想は、「やっと動き出したな」。あとはこのパソコンが、僕が寝ている間も勝手に稼いでくれる——はずだった。
<このとき学んだこと>
手間をかけて動かした道具は、それだけで「良いもの」に見えてくるんだ。かけた手間が、最初にあったはずの疑いを、少しずつ上書きしていく。
役目を終えたはずの古いパソコンが、我が家でいちばんの働き者になった。
何もすることがない — それでも1ヶ月で、倍になった
運用が始まってからの僕は、何もしていない。本当に、何も。
普通のFXなら、チャート(値動きのグラフ)を見て、どこで買うか売るかを自分で決める。でも自動売買は、それを全部ツールがやる。僕の仕事は、口座の数字を眺めること。それだけだった。
そして、その数字が増えていくんだ。
朝起きて見る。仕事の休憩で見る。トイレに立ったついでに、また見る。増えているのを確かめるためだけに、一日に何度も携帯を開いていた。
1ヶ月後、口座は100万円になっていた。
50万円が、倍。「本当に、倍になったな」「1ヶ月で、これはすごいな」と、素直に思った。教えてくれた人には報告したし、周りの何人かにも、少しだけ話した。
ただ——人には、勧めなかった。「怪しいかもしれない」が、まだ心のどこかに残っていたからだ。
<このとき学んだこと>
自分のお金は入れているのに、人には勧められない。今なら分かる。あれは「うまい話に乗れている」状態じゃなくて、「自分だけは大丈夫だと思っている」状態だった。
見ているだけの5ヶ月の、いちばん楽しい時期だった。
出金を迷った日 — 「これが倍になったら、200だな」
100万円になったとき、一度だけ、まともなことを考えた。
「半分だけでも、出金しておこうか」
元手の50万円を抜いてしまえば、あとは何が起きても損はしない。我ながら、正しい考えだった。ここまでは。
でも次の瞬間、頭の中でこう続けてしまった。
「いや——この100万が倍になったら、200だな」
50万円が1ヶ月で100万円になったんだから、100万円は200万円になる。当時はそれが、足し算みたいに自然な理屈に聞こえた。結局、出金の手続きは一度もしなかった。100万円は、そっくりツールに預けたままにした。
正しい考えが、皮算用に負けた。
<このとき学んだこと>
増えている最中の「もし」は、いい方向にしか転がらないんだ。200万円の想像はあんなに簡単だったのに、0円の想像だけが、どうしてもできなかった。
あのとき半分でも出金していたら。その「たられば」は、いまでも、たまに顔を出す。
祈る絵文字 — 自動売買なのに、最後は人力
オープンチャットには、独特の空気があった。
値動きが荒れて、雲行きが悪くなってくると、誰からともなく、祈る絵文字(両手を合わせた、あれだ)が流れ始める。ひとつ、またひとつ。画面に、祈りが並んでいく。
自動売買なのに、最後は人力の祈り。
僕はそれを、ただただ眺めていた。祈りを送るでもなく、何かできるわけでもなく。オープンチャットの画面を見ながら、例の知人とLINEをやりとりしていた。
いま思えば、あれは危険信号そのものだった。ツールを信じ切っているなら、祈る必要なんてない。みんな心のどこかで知っていたんだと思う。これは、祈りが要るたぐいのものなんだと。
<このとき学んだこと>
参加者が祈り始める金融商品からは、離れた方がいい。祈りは、仕組みへの信頼が尽きたところから始まる。
それでも翌朝には、また数字を確かめている自分がいた。
あの朝の続き — 「なんで」より先に、「やっぱりな」
冒頭の朝に戻る。2023年7月28日。
0円の画面を見て、天井を見ていた僕の携帯に、ちょうどLINEが届いた。あの知人からだった。無事だったかを気づかう、短い連絡だった。
聞けば、無傷では済んでいないようだった。やられたのは、僕だけじゃなかった。
あとから、その日は値動きがとても大きい日だったと聞いた。戦争がどうとか、そういう説明を目にした——気がする。正直、このあたりの記憶はもう曖昧だ。確かなのは、前の日まであった100万円が、ひと晩で消えたことだけ。
そして不思議なことに、最初に頭に浮かんだ言葉は「なんで」じゃなかった。
「……やっぱりな」
だった。怪しさ半分で始めたものが、怪しさの方の答えで終わった。それだけのことだった。
で、その日の僕がどうしたかというと。
普通に、仕事に行った。100万円が消えた日も、現場の仕事は待ってくれない。
これだけは書いておきたいのだけど、僕はこの人を恨んでいない。彼も自分のお金を入れて、僕と同じ朝を迎えている。良かれと思って教えてくれただけだ。関係は、いまも崩れていない。誘いに乗るのも、50万円を入れるのも、出金しないのも、全部決めたのは僕だった。
<このとき学んだこと>
半分疑ったまま始めたものは、疑った通りの終わり方をする。そして「やっぱりな」と言えても、何の慰めにもならない。疑っていたのに、やったんだから。
100万円が消えた朝も、世の中はいつも通りに回っていた。
まとめ — 僕がやっていたのは、投資じゃなかった
当時の僕は、投資の本を何冊か読んでいた。勉強しているつもりだった。でも、実際にやっていたことを並べると、こうなる。
・きっかけ :知っている人の「稼いでる」で、怪しさを薄めた
・元手 :家族に言えないお金を、説明できないものに入れた
・運用中 :中身を知らないまま、数字だけを一日に何度も見ていた
・分かれ道 :出金の迷いを、「200だな」の皮算用でねじ伏せた
・結末 :ひと晩で、0円
どこにも、投資と呼べる要素がない。一発逆転を夢見て、正体も知らない道具にお金を預けて、祈りを眺めていた。
僕がやっていたのは、投資じゃなくて、ギャンブルだったんだ。
本を読んで知識をつけたつもりでも、お金の置き方がこれなら、意味はなかった。そのことに、100万円払ってやっと気づいた。
じゃあ今はどう考えているかというと、僕の結論は「インデックスの積立(市場全体にまとめて、毎月少しずつ投資していく方法)ぐらいの距離感が、ちょうどいい」だ。1ヶ月で倍には、絶対にならない。派手さもゼロ。そのかわり、家族に堂々と説明できる置き方だと思う。
「ほったらかしで、お金が増えたらいいのに」——冒頭のこのつぶやきは、実は今も捨てていない。積立だって、仕組みを決めてしまえば、あとはほったらかしだからだ。
ただ、順番だけが逆になる。あのころの僕は、考えることをほったらかしにして、お金だけを働かせようとした。そうじゃなくて、先に考え切ってから、お金をほったらかす。
ギャンブル = 考えることを、ほったらかしにしたお金の置き方。
これが、100万円の授業料で手に入れた、僕の物差しだ。
さいごに — 次回予告と、あなたへのお願い
第1話の予告で、「自動で稼げる」という言葉に心が動いたことがある人の「ブレーキになれたら」と書きました。この記事が、そのブレーキのつもりです。
もし今、3年前の僕みたいに「知ってる人が稼いでるから」「ちょうどお金があるから」で何かに入ろうとしているなら、一度だけ自問してみてほしいんです。
「それ、家族に説明できますか」
僕はできなかった。できないまま入れて、こうなりました。
——で、実はこの話には続きがあります。
3年たった今年、僕はAI(人の言葉で頼むと、調べ物やプログラム作りを手伝ってくれる道具)と一緒に、あのツールの正体を調べ直しました。中身を知らないまま50万円を入れた僕が、3年ごしに中身を開けに行ったわけです。そこで見つけたのは、「欲をかいたから負けた」では済まない話でした。
次回は、その話を書きます。
「100万円溶かしたツールの正体を、3年後にAIと暴いた話」
▼公開しました: 「あれは結局、何だったんだろう」が消えないあなたへ。100万円溶かしたツールを再現したら、11年で60回死んだ
「うますぎる話」を前にしたとき、何をどう疑えばいいのか。その実例として読んでもらえる1本にするつもりです。
それと、ひとつだけ。
よかったら、あなたの「いちばん高くついたお金の失敗」を、コメントで聞かせてください。「勧められた株を高値で買った」とか、「似たような自動売買を見たことがある」とか、その程度の断片でも大丈夫です。0円の画面の話をここまで長々と晒したのは僕が先なので、遠慮はいりません。笑
失敗談は、書いた本人が思っているより、ずっと誰かの役に立つので。


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