「法人にした方がいいのかな」
個人で仕事が回りはじめると、一度はこの一言が、口をついて出ませんか。この記事は、その迷いの真っ最中にいるあなたのための、実物大の見本です。合同会社を作って6期目のひとり社長として、いいことも、ビックリした税金も、この1本に全部入れました。
先に、うちの会社の中身を少しだけ。社員は、いません。6期目の今、僕の役員報酬(会社が社長に払う、毎月の給料のことです)は月8万円です。「社長」という言葉から想像される暮らしとは、たぶんだいぶ違います。それでも僕は、現状にけっこう満足しています。
なぜそうなったのか。時系列で話させてください。
先に打ち明けると — 会社を大きくする気は、最初からなかった
最初に打ち明けておきたい。僕が法人を作った理由は、事業の拡大でも、人を雇うためでもない。
マイクロ法人という設計を、使ってみたかったからだ。
マイクロ法人(役員ひとりだけの、意図的に小さいまま運営する会社のこと。税金や社会保険の負担を設計しやすくする狙いで、この界隈ではわりと有名なやり方だ)。会社の形は合同会社(株式会社より安く、簡単に作れる会社の形)を選んだ。
つまり、うちの会社が設立からずっと「社員は僕ひとり」なのは、成り行きじゃない。設計だった。
<このとき学んだこと>
「起業=会社を大きくすること」という思い込みは、手放していい。小さいまま運営することを最初から狙う設計も、ちゃんと存在するんだ。
もっとも、この設計図どおりに進まなかったから、この記事があるのだけど。
2019年、個人事業から始めた
時系列を最初から並べる。
独立したのは、2019年9月。まずは個人事業主(会社を作らず、個人のまま仕事をする形)として、ものづくりの現場の仕事で始めた。
このブログを読んでくれている人には、副業の失敗談ばかり書いている男の印象があるかもしれない。ただ、本業のほうは、おかげさまで独立からずっと続いている。副業で転び続けながら、本業で立っている。それが僕の実像だ。
個人事業のまま、1年半あまり走った。法人化は、困って追い込まれてのことではなかった。むしろ逆で、困る前に、お金の設計を考えた結果だった。
<このとき学んだこと>
法人化は、追い込まれてするものだと思われがちだけど、僕の場合は「困る前」の決断だった。お金の設計の話は、火が出る前の平時にやる宿題なんだ。
そして個人事業を続けるうちに、僕はあの言葉に出会う。
2021年、マイクロ法人という設計図を手に入れた
個人事業を続ける中で、マイクロ法人という設計を知った。
仕組みをざっくり言うと、こうだ。小さな法人を作って、自分は最小限の給料をもらう。仕事のお金は、法人と個人事業の二本立てで受ける。社会保険(健康保険や年金の、毎月の支払いのことだ)の負担を法人側で設計しつつ、事業は個人側でも続ける。詳しい制度の話は専門家に譲るけれど、要は「お金の受け口を、目的別に2本にする」設計だ。
2021年の春、合同会社を設立した。手続きは、法務局(会社の登記を受け付ける役所だ)の無料相談を事前に予約して、書類を自分で出しに行った。これが1期目。いまが6期目になる。
正直、このときの僕は、いい設計図を手に入れた気でいた。
<このとき学んだこと>
設計図を手に入れることと、設計図どおりに現実が動くことは、別の話。図面は正しくても、現場は図面の外からやってくるんだ。
このときの図面が、いちばんきれいだった。
良かったこと — 「経営者」として見られる日
先に、法人にしてよかったことを書いておく。
いちばん感じるのは、「経営者」として見られるようになったことだ。決算(会社の1年分のお金の成績表を作る手続き)のような法人ならではの話題を、当事者として話せるようになった。相手の見る目が変わる場面は、確かにある。
実利もある。個人事業主のままでは入れない取引が、法人という形があると通る場面が、実際にあるんだ。この差は、業種によっては小さくない。
肩書が「合同会社の代表社員」(合同会社での「社長」にあたる肩書。社員といっても、従業員のことではない)になったからといって、僕自身は何も変わっていない。変わったのは、まわりからの扱いのほうだ。
<このとき学んだこと>
法人格は、能力の証明ではなくて、信用の入場券みたいなものだった。中身が同じ人間でも、券があるだけで開く扉がある。
ここまでは、設計図どおり。問題は、ここからだった。
誤算 — ありがたい悲鳴と、ビックリした税金
マイクロ法人は、小さいまま運営する設計だ。
ところが、ありがたいことに、大きな仕事をいただけてしまった。
「してしまった」という書き方は、仕事への感謝が足りないように見えるかもしれない。もちろん、ありがたかった。ただ、小さく設計した器に大きな売上が入ると、何が起きるか。僕は身をもって知ることになった。
税金である。
金額を前にして、最初に出た言葉が、これだった。
「たっっか!余裕で新車買える額じゃん」
感想が新車で出てくるくらいの、まとまった額だった。
ビックリした。ひとつずつ書く。法人税(会社の利益にかかる税金)は、高い。消費税(お客さんから一時的に預かって、あとで国に納めるお金)は、預かっているだけなのに、通帳の額面を立派に見せてくる。そして納期が来れば、全部返さないといけない。社会保険料は、役員報酬を上げると、そのまま連動して上がっていく。
<このとき学んだこと>
売上の数字は、自分のお金の数字じゃないんだ。とくに消費税は、実質「預かり金」のようなもの。通帳の残高から税金の分を心の中で引き算する癖がつくまで、時間がかかった。
うれしい誤算と、痛い勉強。両方が、一度に来た。
秘書もAIも「手伝う部分がない」と言った
税金の次は、人の話をしたい。ひとり社長の「ひとり」の話だ。
じつは一度、オンライン秘書(ネット越しに事務を手伝ってくれるサービス)を頼んだことがある。ふたり、お願いした。
結果を正直に書くと、うまくお願いできなかった。秘書さんが悪いのではない。僕の指示が下手だったのと、もうひとつ、根が深い理由があった。ずっとひとりでやってきたから、面倒な作業は、その都度ちょっとずつ楽になるよう自分で直してきてしまっていた。秘書さんの診断は、こうだった。
「そんなにお手伝いできる部分がない」
あとになって、AIに事務を任せようとしたときも、ほぼ同じことを言われた。そこまで自動化する部分はない、と。人間にもAIにも、同じ診断を下されたことになる。(正確に書くと、AIには月2時間ぶんの「声かけ」だけは拾ってもらえた。先日書いた月末事務の記事が、その数少ない手伝える部分の話だ)
<このとき学んだこと>
ひとりで長くやると、業務が「自分専用」に最適化されていく。それは効率でもあり、誰にも渡せない形に固まっていくことでもある。手伝ってもらえない会社を、僕は独立からの7年で自作していたんだ。
診断結果「健康。ただし、ひとり用」。
気楽さの正体 — ひとりに最適化された会社
じゃあ、ひとりはつらいのか。
正直に言うと、気楽だ。
会議も、報告も、承認待ちもない。決めたら、その日から変えられる。うまくいけば自分の手柄で、コケても迷惑をかける社員がいない。
さっきの「手伝ってもらえない会社」は、裏返せば「僕ひとりなら最高に動きやすい会社」でもある。同じ性質の、表と裏なのだ。
だから僕は、この形を問題だと思っていない。ただ、この気楽さには「全部の判断を自分で引き受ける」という値札がついている。税金にビックリするのも、設計を直すのも、全部自分。それを引き受ける条件ごと、僕はいまの形に満足している。
<このとき学んだこと>
気楽と孤独は紙一重、とよく言うけれど、僕の実感は少し違う。気楽さは設計の結果で、引き換えに「相談相手も自分」という条件がついてくる。それだけの話なんだ。
この条件の値札を、僕は納得して払っている。
6期目、やっとお金の流れが見えてきた
で、ビックリした税金の話には、続きがある。
考えた末、いまの僕の役員報酬は月8万円だ。会社からもらう給料は最小限にして、仕事のお金は個人事業のほうでどんどん積んでいく。そういう方向に決めた。
※この金額や設計が正解かどうかは、人によってまったく違う。真似する前に、必ず専門家や公式の情報で確かめてほしい。ここに書いたのは、あくまで僕の場合の決断だ。
6期目に入って、やっとお金の流れが確立してきたかな、という感覚がある。事業主なので、不安定は不安定だ。それでも、なんとなく、ちょっとずつ、分かってきた気がする。
もう一声欲しい。それが本音だ。でも、とりあえず現状には満足している。設立のとき手に入れた気でいた「完成した設計図」は、6期かけて、書き直しだらけの現物合わせの図面になった。たぶん、そっちが本物なんだ。
<このとき学んだこと>
お金の流れは、設計した通りには固まらない。運用しながら直して、6期でやっと「自分の会社の取扱説明書」の下書きができた。最初から完成図を持っている社長は、たぶんいない。
もう一声は、7期目の宿題にする。
これから法人化を考えるあなたへ
最後に、冒頭の「法人にした方がいいのかな」に、6期目の僕なりの答えを置いておく。
法人にする理由が明確なら、おすすめだ。
僕のように「マイクロ法人の設計を使いたい」でもいいし、極端な話、「社長と名乗りたいから」でもいいと思っている。動機の見た目より、理由がハッキリしていることのほうが、ずっと大事だ。理由が明確なら、税金にビックリしても、設計を直す軸がぶれない。
逆に、理由がまだぼんやりしているなら、急がなくていい。まずは個人事業主で始めて、走りながら考えれば間に合う。僕自身、個人事業で1年半あまり走ってから法人にした。あの助走は、遠回りじゃなかった。
<このとき学んだこと>
「法人にすべきか」の答えは、他人の損得表の中ではなくて、自分の理由の中にある。理由が言えるなら進めばいいし、言えないなら、まだそのときじゃないんだ。
あなたの理由は、なんですか。
さいごに — 独立からの道のりを1枚にまとめます
長くなったので、ここまでの道のりを時系列で置いておきます。
・2019年:個人事業で独立。まずはひとりで走り始めた
・2021年:マイクロ法人の設計図に憧れて、合同会社を設立
・よかったこと:法人格という「信用の入場券」で、開く扉が増えた
・誤算:ありがたい大型受注と、ビックリした税金
・診断:秘書にもAIにも「手伝う部分がない」と言われる
・6期目:役員報酬8万円に落ち着き、やっと流れが見えてきた
全部を絞ると、残る結論はこの1行です。
ちょうどいい会社 = 事業のサイズではなく、自分の人生のサイズに合わせた会社。
うちの会社は、世間の物差しでは小さいままです。でも、僕の人生には、ちょうどいいんです。6期目の現在地としては、それで十分だと思っています。
ちなみに、この記事に出てきた「個人事業のほうのお金」については、前の日に公開した記事で詳しく書いています。4年使っているお金の通り道の、正直なレビューです。
▼「仕事の保険、どうしよう」と後回しにしているあなたへ。無料の保険と屋号口座を4年使っている正直な話
https://komuroblog.com/freenance-4years-review/
さいごにひとつ、教えてほしいことがあります。あなたは法人派ですか、個人事業派ですか。「法人にしてよかった」も「個人のままで十分」も、コメント欄に残していってもらえたらうれしいです。6期目のくせに、僕もまだ正解を探しているので。笑
あなたの会社が、あなたの人生にちょうどいいサイズでありますように——ではなく、ちょうどいいサイズは、あなたが決めてください。僕が決めたように。


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