※本記事は、筆者自身の失敗体験にもとづく注意喚起です。特定の投資商品・自動売買ツールの紹介や勧誘は一切ありません。
「あれは結局、何だったんだろう」
お金を失った経験には、たいていこの置き土産が残る。僕の場合の「あれ」は、FXの自動売買ツール(為替や金の取引を、プログラムが勝手にやってくれる道具)。50万円が1ヶ月で100万円になって、ある朝0円になった、前回のあの話だ。
▼第2話: 「ほったらかしで増えるなら」と思ったあなたへ。50万円が100万円になって、ある朝0円になった話
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前回の記事は「僕の負け方」の話だった。でも、書き終えてからも、ずっと引っかかっていた。
僕は、自分の50万円を差し出した道具の中身を、何ひとつ知らないままなんだ。
今日はその答え合わせです。3年ごしに、AI(言葉で頼むだけで、調べ物やプログラム作りを代わりにやってくれる相手)と組んで、あのツールの正体を突き止めました。出てくる数字は、運営が自分で公開していた記録と、僕の再現実験(シミュレーション)の結果だけ。願望や記憶で作った数字は、1つもありません。
もしあなたの中にも「何だったんだろう」が残っているなら、この答え合わせは、あなたの分でもあります。
発端 — かっこよく言えば検証。正直に言えば、下心
きっかけから白状する。「ツールの正体を突き止めるぞ」なんて、立派な動機じゃなかった。
今年に入って、僕はAIと一緒に仕事をするようになった。会社の請求書や経費まわりの事務仕事を、プログラミングのできない僕がAIに手伝ってもらって自動化できた。それで、思ってしまったんだ。
「これだけできるなら、あのツールを超える自動売買を、自分で作れるんじゃないか?」
100万円溶かした人間の発想じゃない。でも、本当にそう思ってしまった。検証でも反省でもなく、下心がスタートだった。
ただ、作るとなると避けて通れないことがある。あのツールが「なぜ勝てて、なぜ死んだのか」を知らないまま作れば、同じものをもう一度作るだけだ。だから、調査から始めた。
手元に残っていたのは、0円になった口座のスクリーンショットが1枚と、ツールの名前の記憶。それだけ。ファイルも説明書も、もうない。ツールの名前で検索するところから、AIとの発掘作業が始まった。
<このとき学んだこと>
動機は下心でも、調べ始めれば答えは出る。負けた勝負ほど、あとから中身を見に行く価値がある。授業料は、もう払ってあるんだから。
3年前の僕は、負けた理由を「欲」だけで片付けて、道具の中身を見ずに終わっていた。
正体その1 — あれは、自動売買ですらなかった
まず最初にひっくり返ったのが、これだ。
僕はあれを、EA(自動売買プログラム。売買のルールが中に書き込まれたソフトみたいなもの)だと思っていた。だから買い替えたあと処分しそびれていた古い1台を、24時間動かしていた。
違った。
調べていくと、あのツールの仕組みを解説した有志のページや、消えた紹介サイトの痕跡が見つかった。そこに書かれていたのは、「コピーツール」という言葉(他人の口座の取引を、自分の口座がそっくり真似するようにする道具)。売買を判断していたのは、僕のパソコンの中のプログラムじゃない。どこか遠くにある、運営の口座だ。運営の口座が取引をすると、参加者全員の口座がそれをそっくり真似する。
僕のパソコンは、24時間動く「コピー機」だった。
売買のルールも、リスクの取り方も、全部運営側にある。参加者からは何も見えない。僕は中身の見えない箱に50万円を差して、寝ていたことになる。
<このとき学んだこと>
「自動売買」と聞いて、自動で動くことは分かっていた。でも「誰の判断で動くのか」を、僕は一度も考えなかった。中身が見えないものは、道具じゃなくて賭けなんだ。
数年間、名前すら間違えて覚えていたわけだ。
正体その2 — 消えたサイトの魚拓に、設計図が残っていた
紹介サイトは、もう消えていた。この界隈のサイトは、よく消える。
でも、インターネットには魚拓(消えたページを保存しておいてくれるサービスみたいなもの)がある。AIがそこから、当時の解説ページを丸ごと掘り出してきた。開いたページに並んでいたのは、賭け金の段取り表。つまり、設計図そのものだった。
正直な感想を書いておく。「これは、使える」だった。怖いとか、ひどいとかより先に、それが出た。超えるツールを作りたい下心で調べている人間には、敵の設計図ほどありがたいものはないからだ。
中身はこうだ。金(ゴールド)の価格が2ドル下がるたびに、さらに買い増す。そのたびに賭け金は約1.5倍。最大で15段。1段目を1とすると、15段目は350倍。
負けるたびに賭け金を増やして、一度の反発で全部取り返す。ナンピン・マーチンゲール(カジノの倍賭けとほぼ同じ発想のやり方)という手法だった。相場が少しでも戻れば全部まとめて利益になる。だから勝率だけは、異様に高く見えるんだ。でも、戻らなかったら?
解説ページには、こんな記述もあった。グループでは9段、10段と積み上がると、祈る絵文字がいっせいに流れる、と。前回「ただただ眺めていた」と書いた、オープンチャット(LINEの大人数グループチャット)のあの祈りだ。あれは「そろそろ全損するかもしれない」の合図として流れていたわけだ。
<このとき学んだこと>
勝率の高さは、安全の証拠じゃなかった。負けを先送りしているだけだった。そして先送りした負けは、消えずに積み上がって、いつか一度に返ってくる。
その仕組みの上で、当時の僕はのんきに寝ていた。
正体その3 — 「月利40%」は、嘘じゃなかった
魚拓には、運営が自分で公開していた成績表も残っていた。50万円口座の記録だ。
ある年の8月、プラス35万8千円。9月、プラス28万4千円。10月、プラス22万2千円。11月、プラス27万7千円。
宣伝文句の「月利40%以上」(月利=1ヶ月あたりの増え率)は、嘘じゃなかった。
でも、同じ表の続きにこうある。12月、マイナス46万2千円。口座がほぼ全部飛んだ、ということだ。そして翌年の7月に、もう一度マイナス44万6千円。推奨資金の2倍を入れていた人も飛んだ、と書いてあった。
12ヶ月で、2回。口座ごと消えている。
そして、その「翌年7月」に飛んだ口座の一つが、僕のものだった。前回書いた、2023年7月28日のあの朝だ。
それでも、グループには3,000人以上が集まっていた。たぶん、みんな増えている月の数字だけを見ていた。僕の「1ヶ月で倍」も、いま思えばあの成績表の、輝いている数行のことだったんだ。
<このとき学んだこと>
「実績公開」は、嘘をつかなくても人を騙せる。プラスの行は大きく見えて、破綻の行は小さく見える。見せる側じゃなく、見る側の目が歪むから。
「これは使える」と喜んでいた設計図と、同じ魚拓の中に、これが載っていた。
再現実験 — 11年分の相場にぶつけたら、60回死んだ
設計図が手に入ったなら、やることは一つだ。
AIと一緒に、あの賭け金表をそっくり再現したプログラムを組んだ。利益を確定する幅だけは公開されていなかったので、運営の宣伝「月利40%」がちょうど再現される値(1回の利益幅を60ドル)に合わせた。そして、実在する11年分の金相場のデータ(1分刻みで403万本)にぶつけた。破綻したら50万円を入金し直して続ける。当時の僕らと同じ条件のシミュレーションだ。
結果を、そのまま書く。
破綻は、60回。
入金の合計は、3,050万円。
差し引きで、約1,400万円が消えた計算だ。
しかも今年に入ってからの3ヶ月だけで、27回死んでいた。金相場の値動きが年々大きくなって、2ドル刻み15段の網では、もう受け止めきれなくなっているんだ。週に2回のペースで、口座が消える計算になる。
数字を眺めて、出てきた言葉はこれだった。
「人生、甘くないな」
超えるツールを作るどころじゃない。お手本にしようとしていたものは、11年走らせれば60回死ぬ機械だった。
ただ、実験は別のこともちゃんと再現した。勝ち続ける期間が、本当にあるんだ。それも、1年近く続くことがある。つまり僕が体験した「1ヶ月で倍」は幻じゃない。いつか飛ぶ設計の、飛ぶ前の区間だっただけ。
前回の記事で、僕は敗因を自分の側に置いた。出金しなかったのは僕だし、決めたのも僕だ。それは今も本当だと思う。勝った時点で出金していれば、勝ち逃げできていた。でも、半分は違った。僕が何をどう我慢しても——この道具は、いつか必ず飛んだ。
<このとき学んだこと>
このゲームの唯一の勝ち筋は「出金」だった。そしてそれは、ツールの中じゃなく、外側にある。道具がどれだけ賢くても、降りる判断だけは自分の仕事なんだ。
あのとき100万円で降りた人が、どこかに、きっといる。
あの界隈のいま — 「出金できない」という報告
さて。あのツールの「その後」も、調べはついた。
運営はその後、コピー取引の専用サービスへと衣替えしていた。もう自分のパソコンを動かす必要のない、お金を預ける形のサービスだ。そして2024年ごろから、「出金できない」という報告や、弁護士への相談を促す記事が出るようになっていた。あくまで疑惑の段階だけれど、入金先の会社が突然変わるといった話も報じられている。
相場で負けるのとは、別の負け方がある。
市場で負ける前に、出口のほうが閉まるかもしれない、という負け方だ。僕は100万円を市場で溶かしたけれど、少なくともお金の通り道は生きていた。いま思えば、まだマシな負け方をした側だった。
ちなみに、なぜ運営はツールを無料で配れたのか。答えは、当時の解説ページに書いてあった。参加者が海外の業者で口座を開いて取引するたびに、業者から運営へ紹介料が入る仕組みだ。参加者が勝とうが負けようが、取引さえすれば運営は儲かる。結果として、賭け金がどんどん膨らむあの設計は、運営に入る紹介料も膨らませる構造になっていた。
<このとき学んだこと>
「なぜ無料なのか」に答えられないサービスを、使ってはいけなかった。運営の売上がどこから出ているかを辿ると、自分の立ち位置が見えてくるんだ。
紹介サイトごと消える場所に、僕はお金を置いていた。
まとめ — タダで使える道具 = 使う人が商品になっている道具
調査と実験で分かったことを、並べておく。
・正体 :自動売買プログラムじゃなく、運営の口座のコピー取引だった
・設計 :2ドルごとに賭け金1.5倍、最大15段のナンピン・マーチンゲール
・実績 :「月利40%」は本当。ただし12ヶ月で2回の全損とセット
・再現 :11年のシミュレーションで破綻60回、差し引き約1,400万円のマイナス
・末路 :運営は衣替えし、いまは「出金できない」という報告が出ている
反発を祈って、賭け金を積んで、最後に飛ぶ。あの成績表の綺麗な数字は、その繰り返しでできていた。
全部をひっくるめると、こういうことになる。
タダで使える道具 = 使う人が商品になっている道具。
僕は代金を払っていなかったんじゃない。僕のパソコンという名のコピー機が、運営の売上を刷っていた——そういう仕組みだったわけだ。
3年ごしの答え合わせで、「何だったんだろう」は消えた。かわりに、調べる前より重い教訓が残った。やめる・やめない以前に、「入る前に、中身を見ればよかった」。中身さえ見えていれば、勝っている月にも、あの成績表の12月の行が見えていたはずだから。
さいごに — 次回予告と、あなたへのお願い
この記事は、あのツールを責めて終わりたくて書いたわけじゃありません。「うますぎる話」は、これからも形を変えて現れます。そのときに今日の話が小さなワクチンになったら、それで元は取れたと思っています。勝率の高さに惹かれたら、破綻の行を探す。「無料」と言われたら、運営の売上の出どころを辿る。それだけで、だいぶ違うはずです。
で、冒頭の下心がどうなったかというと——ちゃんと続きがあります。
「超えるツールを作れるんじゃないか」と思った僕は、そのあと本当に作りにいきました。AIと一緒に、46個の戦略を検証して。結末を先に言うと、白旗です。
次の土曜の朝5時に、その顛末を公開します。
「AIと46個の戦略を検証して、インデックス投資に白旗を上げた話」
▼公開しました: 「AIを使えば勝てるんじゃないか」と思っているあなたへ。46戦略を検証して、インデックス投資に白旗を上げた話
自動売買やAI投資がちょっと気になっている人にとって、たぶんいちばん正直な検証記録になると思います。インデックス投資(市場まるごとを少しずつ買っていく、いちばん地味で王道のやり方)がなぜ白旗の相手だったのかも、そこで書きます。
最後に、お願いというか、募集です。
あなたが見かけたことのある「うますぎる話」の誘い文句を、コメント欄に置いていってもらえませんか。定番の「月利◯%保証」から、思い出すのも嫌なやつまで、うろ覚えの断片で構いません。集まった誘い文句のリストは、それ自体が次の誰かのワクチンになります。ちなみに僕が引っかかったのは「実際に稼いでいる知り合いの紹介」でした。文句より強いんですよね、あれ。


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