※本記事は、筆者自身の検証記録にもとづく体験談です。特定の投資商品・自動売買ツール・投資手法の紹介や勧誘は一切ありません。
「AIを使えば、投資でも勝てるんじゃないか」
もし頭のすみに、この考えが住んでいるなら、これは僕からあなたへの検証報告です。まったく同じことを考えた僕が、AIと一緒に46個の戦略を確かめてきました。
結末は、前回の予告どおりです。白旗でした。
ただ、どう負けたかは、たぶんあなたの役に立ちます。話を綺麗にする気はありません。数字は全部、手元に残っている検証の記録から持ってきました。
前回の話はこちらです。100万円溶かしたツールをAIと解剖したら、11年で60回死ぬ設計だった、という答え合わせでした。
▼第3話: 「あれは結局、何だったんだろう」が消えないあなたへ。100万円溶かしたツールを再現したら、11年で60回死んだ
https://komuroblog.com/fx-tool-anatomy/
前回の下心の、続きの話
前回の解剖は、きれいな動機で始まっていない。「あのツールを超える自動売買(売り買いをプログラムに任せっぱなしにするやり方)を、自分で作れるんじゃないか」という下心が先にあって、そのために敵の設計図を調べた。そこまでが前回の話だ。
解剖を終えたとき、作るものの条件はハッキリしていた。
お手本の、逆をやればいい。
損切り(これ以上の損を確定させて、店じまいすること)を必ず入れる。負けても賭け金を増やさない。一度の取引で危険にさらすのは、口座の1%まで。そして、うまくいったように見えた数字ほど疑う。あの「11年で60回死ぬ機械」の、ぜんぶ逆だ。
3年前との違いも、ひとつだけあった。今度は中身が全部見える。自分で作るんだから。
<このとき学んだこと>
負けた道具の中身を見ると、「逆をやれば勝てるんじゃないか」と思えてくる。このときの僕はまだ、正直に作ることと勝てることを、同じものだと思っていたんだ。
いま思えば、ここが今日の話の入り口だった。
平日朝5時、AIとの検証工場
7月の頭。僕の朝に、小さな工場ができた。
平日の朝5時から6時。仕事が始まる前の1時間だけ、パソコンの前に座る。僕が「今日はこの作戦を試したい」とAIに日本語で注文を出す。AIがプログラムを組んで、過去17年分の金(ゴールド)相場のデータにぶつける。バックテスト(過去の相場で作戦を試運転してみること)だ。僕は出てきた成績表を眺めて、次の注文を考える。
プログラミングは、あいかわらず書けない。書けないまま、検証だけが進んでいく。変な光景だと、自分でも思う。
ルールも先に決めた。検証に使うのは2019年までのデータだけ。2020年から先は「金庫」に入れて、最後の合格判定まで開けない。いい成績が出たあとで未来のデータを覗くと、答えを見ながら答案を書くのと同じことになるからだ。そして、実際のお金は、合格が出るまで1円も入れない。
<このとき学んだこと>
道具が進化しても、検証の手順は地味なままだった。AIが速いぶん、「何を試すか」「何を信じるか」を決める人間側の規律が、そのまま結果になるんだ。
この1時間が、しばらく僕の日課になった。
「うっわ、AIすごっ」 — 最初に見えたプラス30%
最初に、教科書にあるような型を14個試した。高値を抜けたら買う、平均線(ここ何日かの平均価格をつないだ線)の上にいるときだけ買う。昔からある、まっとうな型たちだ。
結果は、ほぼ全滅だった。かろうじて1個だけ、17年でプラス5.9%という作戦が残った。17年で、5.9%。年あたりに直すと、ため息が出る。しかもAIいわく、「この程度の差は、まぐれでも出ます」。
そこで興味は、「いつ取引するか」より「いつしないか」に移った。アメリカの金利会議(世界中の相場が身構える、大きな発表日みたいなもの)の日だけ、店を閉めて手じまいしたらどうか。そんな作戦を試したときだった。
成績が、いきなりプラス30%改善した。
「うっわ、AIすごっ。最高……」
正直、完全にのぼせた。3年前、口座が1ヶ月で倍になったときと、同じ種類の体温だった。違うのは、今回は自分の手で、中身の見えるやり方で作ったこと。だから余計に、信じてしまった。
<このとき学んだこと>
「中身が見える」は、「正しい」の保証じゃなかった。自分で作った数字は、他人のツールの宣伝文句より、ずっと疑いにくいんだ。
このときの僕は、まだ何も疑っていない。
幻だった — 監査AIの冷や水
前回の記事で、「うますぎる話は、これからも形を変えて現れます」と書いたばかりだった。書いた本人が、自分の作った数字に舞い上がっている。さすがに我に返って、僕はAIにこう頼んだ。
「この結果を、疑ってみて」
正確には、検証をしたAIとは別の役割のAIに、監査(仕事の中身を、疑いの目で調べ直すこと)をさせた。自分の答案を、別の先生に採点してもらうイメージだ。
答えは、あっけなく出た。
プラス30%の正体は、2005年11月の、たった1回の取引だった。
改善分のほぼ全額を、17年の中のたった1回が稼いでいた。おまけに、手じまいのプログラムには、取引を開け直す部分に不具合(バグ)があって、その壊れ方が、たまたま成績を良く見せる方向に働いていた。直して検証し直すと、効果はほぼゼロ。むしろ会議の日の金は、ほんの少し上がりやすい——手じまいは逆効果かもしれない、というオマケの事実まで出てきた。
30%は、まるごと幻だった。
<このとき学んだこと>
うますぎる数字の中身は、宝くじか、バグ。他人のツールだけの話じゃなく、自分の手作りの数字でも起きる。だから「疑う」は性格じゃなくて、工程にしないと機能しないんだ。
「AIすごっ」は撤回しない。ただ、すごかったのは幻を作ったAIじゃなくて、幻を見破ったほうのAIだった。
12戦略、全滅 — 「あー、人生甘くないな」
1日1回の値段で見る、ゆっくりした時間軸がダメなら、もっと細かく戦えばいい。今度は5分刻みのデータで、数時間から一晩のうちに取引を終える短期の作戦を12個、先に決めて一斉に試した。ロンドン市場が開く時間の勢いに乗る。ニューヨークの開場に乗る。夜の間だけ持つ。プロの世界で名前の知られた、まっとうな型ばかりだ。
AIが返してきた12個ぶんの成績表を、いつもの朝5時に開いた。
勝ち越しは、ゼロ。
いちばんマシな作戦でプラスマイナスゼロ。ひどいものはマイナス67.4%。表をいちばん下まで読んで、口から出た言葉がこれだった。
「あー、人生甘くないな」
前回を読んでくれた人は、見覚えがあるはずだ。60回死ぬシミュレーションの結果を眺めたときと、同じ言葉。他人のツールを解剖したときと、自分の手作りが全滅したときで、僕から出てくる言葉は同じだった。
<このとき学んだこと>
有名な型をそのまま持ってきても、勝てない。「みんなが知っている」とは、そういう意味なんだ。教科書は出発点で、ゴールじゃなかった。
言葉は同じでも、今回は1円も減っていない。それだけが救いだった。
犯人は戦略じゃなく、道具だった — 「そもそもダメじゃん」
ただ、全滅の表をよく見ると、変なことに気づく。
手数料を払う前の成績なら、プラス15%の作戦があるんだ。それが手数料を入れたとたん、マイナス25.3%まで沈む。手数料は、金1オンスあたり往復0.4ドル。それが794回ぶん、取引の量に応じて積み重なる。ちりも積もって、利益を全部持っていっていた。
作戦は間違っていないのに、コストで負けている。
とどめは、教科書に載っている有名な作戦だった。「上がっているものを買って、下がり始めたら離れる」を12ヶ月単位の目線でやる、研究の世界でも広く知られた型だ。プロ用の道具(先物。手数料がとても安い取引のしかた)の条件で検証すると、17年でプラス266%。本物だった。
でも、僕ら個人が気軽に使える道具(CFD。少ないお金で大きく取引できるかわりに、持ち続けると金利を取られる取引のしかた。僕が使える条件だと、年5%ほど)の条件に置き換えると——マイナス61%。
「そもそもダメじゃん」
戦略が敵だと思って連戦していたら、本当の敵は、僕の手が届く道具のほうだった。プロと同じ作戦を知っていても、プロと同じ武器は買えない。
<このとき学んだこと>
個人が相場で戦う相手は、予想の当たり外れの前に、手数料と金利だった。「何をやるか」より先に「どの道具でやるか」で、勝負の半分は決まっていたんだ。
敵の顔が見えたのは収穫だった。うれしくは、なかったけれど。
46個目の生き残りと、最後の壁
なら、道具から組み直せばいい。
手数料の安い上場投資信託(ETF。いろんな株や金の詰め合わせパックを、株と同じように売買できる商品)を軸に、僕の証券口座で実際に使える道具だけで、さっきの教科書作戦を組み直した。台帳の、46個目。
これが、初めての本物だった。
17年で、プラス78.8%。検証期間を前半と後半に割っても、どちらもプラス。46個目にして、正直に作って勝ち越す作戦が、やっと1個できたんだ。
数字を、何度も見直した。たしかに本物だった。それで、僕は隣に、比べてはいけないものを並べてしまった。
同じ17年、金や株を「買って、ただ持ち続けた」場合。プラス250%から344%。
※どの数字も過去17年の検証結果で、これからを約束する数字ではない。
僕が46回の検証の末にやっと作った機械は、何もしない人の、よくて3分の1しか増やせていなかった。
<このとき学んだこと>
「勝てる仕組みが作れた」と「それをやる意味がある」は、別の問題だった。作ったものの本当の成績は、いちばん地味な比較相手と並べるまで分からないんだ。
46個目は、勝った。勝ったはず、だった。
白旗 — 「本とかにも書いてあった」
インデックス投資(日経平均やアメリカの株式市場を、まるごと少しずつ買って持ち続ける、遠回りに見えていちばん手堅い定番のやり方)という言葉は、あなたも聞いたことがあると思う。
僕の46個の検証がたどり着いた結論は、身も蓋もなかった。
僕が作れる範囲の正直な自動売買は、この「地味の王様」に勝てない。
数字を前にして、心の中に出てきたのは、こんな声だった。
「インデックス投資って、やっぱりすごいんだな……いや、確かに本とかにも書いてあった」
そうなんだ。書いてあった。お金の本を開けば、だいたい書いてある。「個人は市場に勝ち続けられない。市場まるごとを買って、持っていろ」と。僕はそれを、読んで知ってはいた。信じていなかっただけで。
白旗は、悔しさより納得の白だった。3年前は他人のツールに負けて、理由も分からないまま退場した。今回は自分の検証で、理由まで分かった上で、降りる。同じ「負け」でも、手触りがまるで違う。
<このとき学んだこと>
本に書いてあることを「読んで知っている」のと、「自分で確かめて信じている」のは、別ものだった。遠回りだったけど、この白旗は誰かの受け売りじゃない。僕の白旗だ。
朝5時の工場は、それきり開いていない。
1円も溶かさなかった、100万円の続きの話
今回の挑戦の、お金の話をしておきたい。
実際のお金は、1円も使っていない。
証券口座にお金を入れる、一歩手前で降りたからだ。使ったのは、毎朝コツコツ積んだ合計8時間ぐらいの時間と、AIの月額利用料の220ドル。3年前に100万円と引き換えだった種類の教訓が、今回はこの値段だったことになる。
もうひとつ、書いておきたいことがある。作りかけの自動売買プログラムに、必ず入れると決めていた仕組みの話だ。
「利益が出ても、出金が確認できるまで、賭け金を増やさない。新しい取引も始めない」
強制ブレーキだ。3年前の僕は、100万円になった口座を前に「これが倍になったら、200だな」と皮算用して、出金しないまま全部溶かした。あの朝の反省を、今度は自分の意思の強さには頼らず、プログラムの側に焼き込んだ。
▼第2話: 「ほったらかしで増えるなら」と思ったあなたへ。50万円が100万円になって、ある朝0円になった話
https://komuroblog.com/fx-auto-zero/
結局、このブレーキに出番は来なかった。でも、降り方を先に用意していた時点で、3年前とは別の人間に、少しはなれていた気がする。
<このとき学んだこと>
進歩は「勝てるようになること」だけじゃない。「負ける前に降りられるようになること」も、たぶん同じくらいの進歩なんだ。
100万円の授業料の領収書が、3年遅れで、やっと手元に届いた気分だった。
さいごに — 3年間の答え合わせを終えて
第2話から続いた記録は、これでおしまいです。並べてみます。
・第2話: 50万円が100万円になって、ある朝0円になった(他人のツールで、負けた)
・第3話: そのツールは11年で60回死ぬ設計だった(負けた理由が、分かった)
・第4話: 自分で正直に作っても、インデックス投資に勝てなかった(降りる理由が、分かった)
この3年を1行に煮詰めると、こうなります。
正直な検証 = 夢の値段を、お金を払う前に教えてくれる装置。
3年前の僕は、値段を確かめずに夢を買って、100万円を払いました。今回は先に値段を確かめて、買わずに店を出ました。それだけの違いです。でも、その「それだけ」のために、46個の検証が必要だったんです。
冒頭の「AIを使えば、投資でも勝てるんじゃないか」に、いまの僕が返せる答えはこうです。AIは、勝たせてはくれませんでした。でも、飛び込む前に夢の値段を教えてくれた。僕にとってAIは、儲ける道具じゃなくて、確かめる道具でした。
で、白旗を上げた僕がいま何をしているかというと——このブログです。相場からは降りたけれど、「検証して、正直に書く」は、そのまま次の実験になりました。パソコン1台とAIで、どこまでやれるか。その記録を、この場所で続けていきます。
▼第1話: 「今日も更新しなきゃ」に潰されたあなたへ。ブログを10日で全削除した僕の敗因は、たった1つの思い込みでした
https://komuroblog.com/blog-10days-quit/
もし「自分も何か始めてみようかな」と思ったら、ブログを再開したときの記録も置いておきます。1年契約を3週間で無駄にした男の、2度目のサーバー選びの話です。
▼「もう一度ブログをやりたい」あなたへ。1年契約を3週間で無駄にした私が、2度目もConoHa WINGを選んだ理由と全手順
https://komuroblog.com/conoha-wing-restart/
土曜の朝のFXシリーズは、ここでいったん区切りです。書きたい話の在庫はまだたまっているので、このところは平日の朝にも、AIと仕事の実録をぽつぽつ出しています。土曜のこの枠でも、引き続き別の実録を書いていきます。
ここまで付き合ってくれたあなたに、ひとつ聞いてみたいことがあります。あなたの「勝てるんじゃないか」は、いま何に向いていますか。「自動売買を試したことがある」派も、「AIで何か作ってみたい」派も、コメントで一言もらえたら十分です。46連敗の報告をひとりでやるのは、なかなかの公開処刑なので。笑
あなたの「勝てるんじゃないか」が高い授業料になる前に読んでもらえたなら、この4話ぶんの負けにも、ちゃんと意味があったことになります。


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